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ブレンドコーヒーを渡すと、香りを味わいながら、一口一口舌で転がした。
「それにしても、こうしてココでコーヒーを飲むのは久しぶりだ」
「母もコーヒーを淹れてたんですか?」
和子が聞くと、田中のおじさんは驚いた顔をした。
「何言ってんだい、あの時、和ちゃんがしずえさんにコーヒーを持ってきたんじゃないか。その後、私にももう一杯淹れてくれたんだ。よぅく覚えているよ」
「私が母に、ですか?」
「てっきり、あの時の経験があったから、この場所で喫茶店を開こうとしているんだと思ったんだが、違うのかい?」
おじさんは言った。
和子は母が苦手でタバコ屋には近づかないようにしていた。だからこの場所でコーヒーを淹れたことなんて無いはずだ。しかしそう言われると、ぼんやりと何かが、なにか大切なことが思い出されるような気がした。
「ごちそうさま、美味しかったよ」
昔のことについて聞いてみたが、母親に聞いてみてはどうかな、と笑ってはぐらかすばかりで応えてはくれなかった。
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