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走馬灯のように過去の色々な出来事を鮮明に次々と思いだす。これは走馬灯のようではなく走馬灯だった。わしはもうこの世を旅立つ時らしい。八十年以上も生きていればやるべきこともほとんどやり終え、もう未練も後悔も特に見当たらない。いい人生だった。
しかし死ぬ間際と言うこの状況で今更になって、ある疑問が浮かんだ。わしの妻は本当に幸せだったのだろうか、と。妻だけではない子供たちもだ。わしは妻も子供も愛してはいなかった。言ってしまえば上辺だけだった。愛してるとは言っていたし、しっかりそう見えるようにもしてきた。それでももしかしたら、本当に愛してくれる人といた方が幸せだったのではないのかと。なぜ今になってこんなことを考えてしまったのかはわからない。
しかし最後に気づいたことがあった。自分がどこかで捨ててしまい、そして最後になって取り戻したもの。それは人として一番大切なはずの『心』なのではないのかと。
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