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私は深呼吸した。今までの状況を整理しながら、推論を考える。手つかずのポップコーン、毒入り、高校生、カップル、一つ目の考え方も二つ目の考え方も、全部。
「分かりましたよ、先輩。このポップコーンが手つかずだった理由が」
映画館は、静まりかえっている。先輩は真剣なまなざしでこちらを見据えた。
「このポップコーンには、食べられない理由がある。これは、二つ目の考え方です。それに、一つ目の考え方を重ね合わせて考えるんです。
つまり、このポップコーン自身に、食べてはいけない理由がある。そしてそれは、このカップル自身に問題がある故である。
……アレルギーですよ。カップルのうち、片方がトウモロコシのアレルギーだった」
先輩はきょとんとしている。そして、あごに手をやり一瞬考え込むと、私に言った。
「いや、それでも手つかずのポップコーンは出来ない。片方がアレルギーだとすれば、もう片方が食べればすむ話だ。それに、もし仮に、両方がアレルギーだったとしたら、ポップコーンは購入されることすらない。」
「いや、アレルギーを持っていたのは片方です。おそらく、彼女の方。ポップコーンを買ったのは彼氏です。彼氏は彼女がアレルギーを持っていることを知らなくて、ポップコーンを買ってしまった。」
「片方だけがアレルギーなら、それでも問題ないはずだ。彼氏が食べればすむ話だろ。手つかずのポップコーンはできないよ。」
「いや、この場合、彼氏もポップコーンを口にすることは出来ません。先輩、この席に座っていたのは高校生のカップルです。二人は、映画を見た後、どうすると思いますか」
先輩は、はっとした表情になる。
「感想を話しに、喫茶店か、ファミレスか。公園でもいい。デートを続けるはずだ。」
「そうです。デートはそこで終わるわけじゃない。」
私は息を整えて、話を続ける。片方がアレルギーを持っていれば、必然、もう一人も食べられなくなる。
それは、甘酸っぱい、青春の味。
―――キス、ですよ。
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