毒入りポップコーン事件

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 上映が終わると、観客の流れに逆らうようにスクリーンに入った。飲みかけのドリンクや床に落ちたポップコーンを見ながら、大きなため息をつく。持ってきた掃除用具の中から、ほうきを持ち上げると、私は床に落ちたゴミの掃除を始めた。  映画館でアルバイトを始めて三ヶ月になる。元々映画好きだったこともあり、大学入学と同時に映画館でアルバイトを始めた。休憩中にタダで映画が見られるとか、そんな言葉に誘われ、近所にあるこの映画館をアルバイト先に選んだ。  しかし、三ヶ月もアルバイトをしていると、現実が見えてくる。休憩中に映画が見られると言っても、土日の忙しい時間ではそんな暇があったものではない。かといって、無理に平日に見ようものなら大学で勉強を終えた疲れと、仕事の疲れが相まって、三十分もすれば意識はどこか遠くへ飛んで行ってしまう。バイト仲間に「上映終わりましたよ」と起こされるのが恥ずかしくて、結局好きな映画は休日にお金を払って見に行っているのが現状だ。  床に落ちたポップコーンを、ちりとりで拾って、ゴミ袋に入れる。私の担当は、主に上映後の片付けだった。理想と少し違ったとはいえ、やはり好きな映画館で働けるのはうれしいのである。本当は、もっと綺麗に使って欲しいというのは、私の本音なのだけれど。  仕事を続けていると、入り口の方から「お疲れさま」と声がした。  見ると、アルバイトの先輩が立っていた。手に掃除用具を持っているところを見ると、どうやら手伝いに来てくれたようだ。 「お疲れさまです、先輩。売店の方は、もう一段落ですか」 「いや、今日はチケット確認の方だった。半券もぐのが遅くて、俺の前に行列できちゃったよ。慣れないね、ありゃ」  先輩は笑いながらほうきを取り出す。私が列の前から掃除をしているので、一番後ろの列に回ってほうきをかけ始めた。 「もうバイト慣れた?」 「まあ普通ですかね」と私が答えると、先輩は続けた。 「どうして映画館でアルバイトしようと思ったの?」 「元々、映画好きだったんです。ここの映画館も、昔から結構通ってて」 この映画館は大型のデパートに隣接している。子どもの時からよく通っていたし、学生時代には少ないお小遣いをやりくりしてよく来たものだ。 「仕事とか大変じゃない?今日とか休日だし、カップルデーとかでお客さん多くて、もうてんやわんやだよ」
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