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「うーん、単純に考えれば、買ったはいいけど、食べる暇が無かったとか。息もつかせぬ超大作だった、とかね」
「確かに、これは評判のいい映画ですね。まあ、デートで来るなら無難な線の作品だと思います。でも、息もつかせぬ超大作かと言われると、ちょっと怪しい気はしますが」
「もしくは、初めてのデートで、余裕が無かったとか」
初デートで緊張していいて、ポップコーンを食べている暇がなかった。あり得ない話ではない。けれど、仮にそうだとすると、いくつか疑問が残ってしまう。
「それでも、おかしいです。いくら初デートで緊張していたとはいえ、このポップコーンには一つも手がつけられていません。一つもです。食べる暇が無かったとはいえ、せっかく買ったポップコーンを一つも食べないというのは考えられるでしょうか」
先輩はまた考え込んだ。私は続ける。
「それに、彼らはドリンクを飲んでいるんです。超大作だったにしろ、初デートで緊張していたにしろ、オレンジジュースを飲む余裕はあった。ポップコーンを食べない理由にはなりません」
「ポップコーンは、口が渇く。のどの渇きはジュースでなんとかなるが、ポップコーンではどうにもならない。初デートなんだ、それぐらい緊張していたとか」
「カップルの二人とも、ポップコーンを一つも食べられないほど、ですか」
先輩は少し考え込んでから、再び話し出した。
「さっきと逆の発想で行ってみよう。映画が全然面白くなかったんだ。だから、ポップコーンを食べることなく、途中で帰っちゃった」
「先輩、それ本気で言ってます?」
「やっぱり苦しいか。これだと、ドリンクは飲みきったのに、ポップコーンを一つも食べられない理由にはならない」
「そうですね。それに、つまらない映画か、面白い映画か。見極めるにも時間がいりますよ。少なくとも15分とか30分とか。仮につまらない映画だったとしても、その間にポップコーンに手が伸びてもおかしくない」
「つまらない映画なら、なおさら手が進みそうだ」
先輩は遠い目をした。もしかすると、これまでに見てきたつまらない映画を思い出しているのかも知れない。
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