毒入りポップコーン事件

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「先輩、もう推論は終わりですか」 「いや、まだある。二人は映画館に途中で入ってきた。だから、入ったときにはストーリーがつかめなくて、帰った。遅れた理由はなんでもいい。チケットを買ったはいいけど、ショッピングが長引いた。急いで中に入ったら、ストーリーはもう終盤だった。だから、ポップコーンを食べる暇もなかった」  私はため息をつきながら答える。 「ポップコーンを買う時間はあるのに、映画の開場時間には間に合わない、なんてことありますかね」 「そのポップコーンをどうしても買いたかったのかも知れない。映画鑑賞にはポップコーンがないと始まらない。映画館と言えばポップコーン、ポップコーンと言えば……って、さっきも言ってたけど」 「いくら売店が混んででも、10分もあればポップコーンぐらい買えるはずです。映画を見るのに、10分少々遅れたぐらいじゃあ大した問題は無い。予告映像の時間だってありますから、話の本筋がつかめなくなることはないはずです。」 「言われてみれば、そうだな」 「それだけじゃありません。もし仮に、売店がものすごく混んでいたとしましょう。でも、そこまで執着してポップコーンを買ったのなら、一口も食べていないのはおかしいです。」  先輩は、腕を組み直し「5分だけ考える」と言って、映画館の掃除を再開した。映画館に静けさが戻ってくる。私は他の座席に残ったゴミや落とし物を回収しながら、先輩が推論を立てるのを待った。
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