毒入りポップコーン事件

9/11
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 先輩は、「もう、降参かな」と座席に座り込むと、「今度は、そちらの推論を聞こうじゃないか」と足を組みながら私に尋ねた。 「じゃあ、私の推論を話しますね」 「さっきまで先輩の推論にケチをつけてきましたが、考え方としてはよかったと思います。でも、手つかずのポップコーンが出来るには、二つの考え方があると私は思うんです。 一つ目は、さっき先輩が考えたように、カップルたちに食べられない理由があった、という考え方。初デートだったとか、ケンカして女の子が出て行ったとか、そういうカップル自身の問題でこのポップコーンができあがったという考え方です。 そして、二つ目は、このポップコーン自身に食べられない理由がある、と言う考え方です。ひらたく言うと、このポップコーンが毒入りであるとか、そういう考えです。」 「『毒入りポップコーン説』ってことね」  先輩はポップコーンを眺めながら頷く。私は続けた。 「私は、二つ目の考え方、このポップコーン自身に着目して、推論を立てたいと思います。  このポップコーンには、食べられない理由がある。最初に私が『毒が入ってるかも』なんて言ったから、仮に毒入りポップコーン説って事にしますが、別に毒が入っている必要はありません。床の上にひっくり返したとか、彼氏がポップコーンにくしゃみをぶっかけてしまったとか、そんな事でもいいんです。それだけで十分、食べられないという理由になります」  先輩は答える。 「それでも、やっぱりおかしいと思うよ。床の上にひっくり返したのなら、バターソースはもっとぐちゃぐちゃになっていなきゃいけないし、彼氏がくしゃみを引っかけたなら、彼氏自身はポップコーンを食べられる。他人にくしゃみを引っかけられるなんてことは、ビニール袋に入ったこのポップコーンじゃまずありえない」 「そうですね。だから、このポップコーン自身に問題があるとすると、このカップルが意図的に毒を入れた。だからポップコーンは手つかずであるという推論しか立たなくなる。ゆえに、このポップコーンは毒入りである事が証明され、私たちはこの推理対決の商品、ポップコーンを食す権利を得ることが出来なくなってしまいます」
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!