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この家のせいだ。つい今日越してきたばかりの新居である。今、この時が初めて迎える夜だった。一国一城の主になったとは言え、慣れない部屋だ。寝具も新調している。寝付けないのも無理がないのかもしれない。
宏昭は、再び杏奈の様子を伺った。杏奈は熟睡している。ここが新居だと感じさせないほど、すでに馴染んでいるようだ。
大したものだと思う。当たり前だが、杏奈も自分と同じように、昨日まで別の場所で寝ていたのだ。子供である穂香はともかく、こうもすぐに適応できるとは、随分と神経が太いような気がする。杏奈はそんな図太い性格だったのだろうかと、疑問が浮かぶ。それとも、自分が神経質であるだけなのか。
宏昭は寝返りをうち、目を閉じた。眠ろうとするものの、上手くいかない。やがて、取り留めのない思考が、頭を駆け巡り始める。
新居の購入を邁進したのは、妻の方だ。娘も生まれ、頃合としては悪くない。だが、気乗りしなかった。ローンも組む必要がある。これから、二十五年、毎月返済していかなければならないのだ。今自分は、三十六だから、完済は六十を超える。ちょうど退職金も充てることになるだろう。ローン会社も、上手く考えているものだと感心する。
だが、本当に気乗りしなかったのには、別の理由があった。それは言葉では言い表せないものだ。無理に表すならば『生理的に嫌』がベストか。
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