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物音がしたような気がして、私は目を覚ます。
頭をぼうっとさせたまま布団から起き上がった。
がたん、と隣のリビングから小さな音が鳴った。その瞬間、私の意識が覚醒する。
――リビングに誰かがいる。
日本人形の不気味な姿が、私の脳裏に思い浮かんだ。まさか、動いているのだろうか。恐怖でかたかたと音を立てようとする歯を食いしばりながら、そっと襖を開けて隙間からリビングを見る。
見知らぬ男が、部屋の中をあさっていた。
驚き、身じろいだ瞬間、私は布団近くに置いてあった目覚まし時計を蹴飛ばしてしまった。あっ、と思ったが、もう遅い。男がぐるんとこちらを振り返った。
私の視線は、ポケットから出てきた男の右手に吸い寄せられた。手にはナイフが握られていた。
男が大股で近づいてくる。
懐中電灯の光で浮かび上がった侵入者の顔はひどく歪んでいた。
顔を見られたから、私を殺すつもりだ。
頭では理解していた。しかし、まるで金縛りにあったかのように身体が言うことを聞かない。恐怖で身をすくませた私に、男がナイフを振り上げる。
殺される、と思った次の瞬間、男に何かが飛びついた。
ぎゃっ、と侵入者が短い悲鳴を洩らす。男が顔に張り付いた何かを引き剥がそうとする隙をつき、私はナイフを奪い取ると、そのまま侵入者を突き飛ばした。床に身体を打ち付け、呻く男から視線を外さずに、私は震える手で電話のボタンを押し、警察に通報した。
集まってきた警察官に男が連行されるのを眺めながら、私は先ほどの光景を何度も頭の中で再生する。
侵入者に飛びついたのは、あの日本人形だった。
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