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魔法使いの世界では、とある魔法遊びに空前のブームが到来している。
それはホムンクルス作り。ホムンクルスというのは平たく言うと人造人間のことだ。
それはある魔女の魔法の失敗が発端で発見された魔法で遊びだった。
ホムンクルスは手乗りサイズで寿命が短く、ほっとけば出来が悪いのだと五分で消えるらしい。
「『蜥蜴の尻尾』をベースにね『愚か者が見た夢』を一枚と『世界で一番小さな海』を三粒混ぜて、軽く『打ち出の小槌』で一回叩くの」
主人は揚々と自分が発見したホムンクルス作りの新しいレシピを学友たちに話している。
私は窓際でそれを眺めながら、顔を洗ったりしていた。
「それで出来たのが、この子。7746番!」
そう言う主人に肩を触られたそれは一見、ただの魔女のように見えるが、違う。
ただのホムンクルスだ。他のホムンクルスと違って人間と同じ大きさだが、他のホムンクルスのように瞳が虚ろだ。ホムンクルスは何かを教えるごとに瞳に光が宿っていく。
ホムンクルスは番号で呼ばれる。色々と理由はあると主人は言うが、私が考えるにわざわざ名前を付けるほどの愛着が沸かないのだろう。
「『愚か者が見た夢』って何?」
「いい質問ですねぇ」
主人は自分の魔法に興味を持たれて、わかりやすく機嫌が良い。
「それはこれ! 地球にあったわ」
そう言って、彼女は文字の書かれた紙の束を皆に見せた。それは未完結の小説で、ある人間の自伝のようだった。
主人はそれを読んで鼻で笑い『愚か者が見た夢』と名付けた。
個人の思い入れが強いものは自然と魔法のような力を宿す。
でも、それはとても稀少なもので簡単に手に入るものではない。
私の主人は強運の持ち主で利己主義の野心家だ。野心が運を呼んでいるのかとさえ思う。
こうして私のような猫を飼えているのだから、勿論実力がない訳じゃない。
彼女の一番の野望はこの世界で一番の大魔法使いになり、私利私欲の限りを尽くすことだ。
そのための努力を厭わない。いや、努力しつつ、自分の私欲を満たしている。
今、こうしてお泊まり会と称した自分の独擅場を開催するのもそうだし、ホムンクルス作りだってそうだ。
私は今一番、主人が血気盛んに楽しんでいる人形部屋の入口をじっと見た。
美しいものは求心力になる。それが主人の考えだ。
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