3年間

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 わたしはバレーボールの練習後、いつもこの道に寄り道をして自分の気持ちの在処を確認していた。直の住んでいたマンションの近くにはコインパーキングがあり、会いに来るといつもそこに車を停めていた。週末の夜でもいつも2台分空いていた回転率の良い駐車場が、最近はずっと満車の赤いランプを灯している。  直は3週間前に東京へ転勤した。正確に言うと、元の生活圏へ戻ることが出来た。由縁のない土地で3年間努力し続けたことによる栄転だ。しかし、転勤となっても当然続くと思っていた縁は直にとってはそうではなかった。直は仕事に一途で、それをなによりも大切にしていた。チャーミングなキャラクターから想像し得ないような地道な努力を重ね、資格を得て信頼を築き、想像を絶するノルマの重圧に時には血を吐きながらも闘っていた。経済新聞の一面を飾る大きな仕事をするとも宣言していたほどの情熱があった。だから今は仕事をいちばんにしたいと言われたときに、彼にとって必要なのは遠距離恋愛ではないことが容易に理解できた。  直はチームの創設者であり集団の統率力に優れ、怜悧という言葉がよく似合った。賢さ故のずるさや腹黒さも持ち合わせるが、慕われるその柔らかな物腰でなんでも覆い隠してしまう。たまに瞳の奥が深くなり、哀しそうな目をすることがあった。直が何か大きな傷を覆い隠していたとしても、わたしは全てを受け入れる自信があった。 けれど頑固な二人が自分の生き方を曲げるはずもなく、散々言い合った挙句、わたしは腫れぼったい作り笑顔で一歩引いて、物分りの良い女のふりをした。  言い合いをしたのはこれが最初で、最後になった。  それから3週間後が今日だ。ここに来る前、わたしは未だに途方に暮れていた。心の支柱を無理やり引き抜いてできた穴を、塞ぐものはなにもなかった。仕事をしている最中も、ごはんを食べている最中も、そこから涙が溢れて流れた。気持ちと身体をコントロール出来ない不自由に苛まれた。心臓はプレス機に挟まれているような圧迫感を感じて苦しく、気を抜くと潰れてしまいそうだった。こんなに息苦しいのに、自分の身体が歪んでいないのが不思議なくらいだ。  
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