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「最後に少し調整するね」
もう最後になってしまった。わたしはまだその手の中で温められていたいと願うほど、その指先に惚れ込んでいた。
幼馴染はハサミを手際よく翻し、サロンに差し込む夕日を反射させた。腰を低く落として目線を毛先に合わせ、わたしの髪の毛の一本一本にまで、ひたすらに真剣な眼差しを注いでいる。それはいままでに見たことがないほどに力強く精悍な目元だった。
昔から優しすぎる幼馴染は、そういえばよく泣いていた。
あぁ、そうだ。
わたしはその涙に胸を締め付けられたことがある。
幼馴染は柔らかい笑顔で合わせ鏡をして、色々な方向から新しいヘアスタイルを見せてくれる。
「こんな感じ。目標は達成できてるかな?」
大きな鏡に映った自分は、確かに変わっていた。
胸にかかる程長かったストレートのロングヘアは、肩にかからないほどさっぱりと短くなった。柔らかくコシのない髪にもしっかりパーマがかけられて、毛束がそれぞれ好きな方へ向かってくるり、くるりと踊っている。カラーをしていなかった無垢な黒髪は、艶のある明るい栗色に変わっていた。
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