15分後の勇気

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 幼馴染の花島暁斗(はなしまあきと)は、小学生の頃と変わらぬほど細身で、身体にはまるで無駄なものがついていなかった。胸元にポケットがついた白いシャツに、くるぶしが見える丈のインディゴジーンズを合わせている。仕事用として履いているスニーカーはスタンスミスと決めていて、美容師になってから何足も履きつぶしては同じものを買っているそうだ。長い黒髪にハサミをいれるときに、花島はそんな話をしていた。わたしはそれを殆ど音として聴きながら、入念に手入れをしてきた長い髪を失う瞬間を鏡越しに見ていた。潔く切り進める手元と切り離された花島の声は、ゆったりと耳元に流れ続けてわたしの心を穏やかにした。わたしは一気に短くなった黒髪をぼうっと見ていた。それでも花島は、スタンスミスは履き心地が良くてこの仕事に一番合う靴だと話し続けていた。  それから何気なく美容師である花島のヘアスタイルを眺めていた。それは思いの外シンプルで、地毛のままの黒髪が清々しかった。長いトップはふわふわとエアリーにセットされ、襟足は短く切り揃えられて清楚だった。もみあげに隠れたツーブロックの刈り上げが、ふと横を向いた時にちらりと見える。わたしはいつの間にか、その容姿や細かな仕草に花島らしさを探していた。昔の記憶と同じ控えめな優しさを感じて安堵し、斬新で力強いわたしの知らない一面には胸が弾んだ。  花島は手のひらにワックスを薄く伸ばして、くるくると跳ね回る毛束に揉み込み馴染ませている。わたしは鏡越しに、てきぱきと動くその優しい指の形に見入った。
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