15分後の勇気

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「ねぇ、花島。けいどろ、みんなでよくやったよね。給食食べたあとに、体育館で全力疾走してたなぁ。あのときはどっちが勝ったんだっけ?」  花島と鏡越しに目が合った。青空のように爽やかな、それでいて真剣な眼差しが鏡から跳ね返ってくる。いまのわたしには少し眩しすぎるくらいだ。 「ドローだよ。どろぼうが半分くらい捕まったところで、ちょうど昼休みが終わる鐘が鳴ったんだ。(ゆかり)は怒って先に教室に戻っていたからね。俺はけいさつだったけど、牢屋で膝抱えて泣いてたんだよな。友達や先生にどうしたのって聞かれても、紫を怒らせたなんて言えなかったよ」  花島の口元は微笑んでいたが、熱を帯びる真剣な眼差しは、わたしの髪に注がれていた。 「そう言われて思い出した。5時間目が始まる少し前に先生と教室に戻って来たことも、その時に心にズンと感じた悲しさも」  花島は白いタオルで手を拭い、わたしの後ろに立ったまま椅子に両手を掛けた。また鏡越しに、あの爽やかな奥二重と目が合った。花島は少し微笑んで、背後から私の頭に覆い被さる様にしてかがみ込み、右手をわたしの目の前に出した。後頭部に触れるシャツ越しに、花島の体温をほんのりと感じた。 「じゃあ、もうこれで仲直りね」  そこには少し震えた小指があった。手荒れのない指先の爪は、きちんと短く切り揃えられている。わたしはその心細い小指に、急いで自分の右手の小指を掛けた。
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