15分後の勇気

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「名前、初めて呼んでくれたね」 「ごめん忙しいのに呼び止めて。あの…これからは暁斗って呼んでいい?」 「いいよ。暁斗って呼んで」  暁斗はそっとわたしの手を取った。そして、胸ポケットから摘み出したものをそこに乗せた。  蝶のように見えたそれは、水色の小さなリボンだった。  プレゼントや花束の包装に使うようなそのサテンのリボンは、小さな蝶々結びになっていた。本物の小さな水色の蝶が、手のひらで休んでいるように見える。 「さっき追いかけたときに渡そうと思って作ったんだけど、やっぱり恥ずかしくて辞めたんだ。でも紫が俺の名前呼んでくれたから、渡す自信が湧いたよ」 「これは、あのときと同じ水色のリボン?」 「俺の真剣な気持ち。他のどんな人と付き合っても紫のことがどうしても忘れられなかった。だから、今日会えたのなんて本当に夢みたいだと思った。俺はこのチャンスも紫のことも、できれば手放したくないんだ。このリボンを、いつかサムシングブルーにしてみせる。そんな約束は……やっぱり重いかな」  わたしはすぐに首を横に振った。重いことではなく、重いことに否定的な気持ちを訂正したかった。 「重くて嬉しいよ。真剣な気持ちは重いもの。わたしその日まで大事に持ってるから、今度はちゃんと捕まえてね、暁斗」  もう、荒療治のためにあの通りを走ることはないだろう。わたしの新しい道は、いまここからはじまるはずなのだ。  いつの間にか人の流れが止まっていて、ふたりの周りには赤信号を待つ沢山の人がいた。  夕暮れの帰宅ラッシュに揉まれてくたくただった無口な人々が、ふたりの未来に少し微笑んでいたことはそこに居た誰もが知らない事実だ。
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