ひとつまえの恋

3/5
69人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
 直の働き方に比べれば、心身を壊すようなハードさ、という点においてリスキーなことは何もない仕事だ。  土日も仕事の準備をすることが多い直とは出掛けること自体少ないが、イベントのときだけは仕事を忘れて、ちゃんと二人とも楽しんだ。ちゃんと、だ。  直とは一対一で過ごす時間よりも、バレーボールチームの中で関わることのほうがはるかに多かった。集団の中の直は、わたしだけの存在ではない。直は普段から仕事に追われて時間がなくて、でもチームの仲間からの需要も多い。直と居る楽しさはわたしもよくわかっているから、みんなを差し置いて独り占めはできない。  ついこの間のクリスマスも、バレーボール仲間が20人くらい集まってみんなで騒いだ。一次会では社会人らしくフォーマルなパーティー衣装に身を包んで、お洒落なレストランを貸し切り食事会とした。男子はスーツに身を包み、女子は髪を盛ってドレスを纏う。レストランの雰囲気に負けないように、普段の汗だくジャージ姿からは想像がつかないほど着飾り、コース料理と、シャンパンと、新鮮な容姿と、緊張感を楽しんだ。楽しんだあとはその年の年収の高いトップスリーが協力し合って、全員の一次会代を精算するのが毎年のルールだ。    本音を言い合ってもお互いにダメージが及ばない具合に酔いが回った二次会では、大きな個室を予約したカラオケレストランで絶叫三昧だ。世代ごとに選曲が偏るが、楽しければなんでもいい酔っぱらいたちは肩を組み、知らない曲にも積極的に適当に合いの手を打つ。ときには仕事やバレーボールに対する熱い持論を語り合い、称え合う。最後にチーム創設者である直の一本締めで解散の号令が出ると、その後は三々五々だ。別のバーへ流れる者、終電を目指すランナーなどに別れて大きな集団は解散する。わたしはそこで、ようやく直と二人になる。脱水による頭痛と関節痛で動けない朝を見越して、マンションの目の前のコンビニに寄り、ミネラルウォーターを2本買った。  
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!