3年間

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3年間

 惜しい気持ちは、ずっと心の底に澱となっていた。  わたしの脳裏には、繁華街から少し離れた穏やかな北1条通りの風景が映っている。  その大きな通りには、4月中旬になっても冬の名残があった。道路に沿った広い側道は、冬の間雪を寄せておくスペースとして活躍する。季節が変わって気温が上ってくると、野山は春めく一方でそこに取り残された純白だったはずの雪は排気ガスや土埃で黒く薄汚れていた。毎日昼間の日射しで溶けて水になって流れては、夜の寒さでまたザクザクと中途半端に凍る。そうやって少しずつ小さくなってみんなが気にも止めなくなった頃、黒い雪は知らないうちに消えてしまう。  夜の大気は未だに溶け切らない雪の匂いを含み、寒々しかった。わたしはその冷たく新鮮な空気を吸い込み、肺胞のひとつひとつまで行き渡らせた。冷気は肺を通して全身に運ばれ、汗が引いた体に染み渡っていった。背筋がぞくっとして全身が粟立つことに生を感じる。  肺の換気が終わると、細く開けていたパワーウィンドウを閉めた。横目に青白く光るガソリンスタンドが通り過ぎる。仕事の後、所属している社会人バレーボールの練習に参加した。それは社会人になってすぐの、3年前から続けている趣味だ。理学療法士として働き始めたばかりの頃は、失敗の連続や先輩からの叱咤による精神的な疲れと、緊張し通しの肉体の疲労で、心に余裕のない辛い日々が続いた。そんなときに、テレビでバレーボールのワールドカップを見て、この街のバレーボールチームを探してみようと思い検索をかけた。その検索結果が、このチームだったのだ。それから週に2度の練習に参加してバレーボールを触るようになり、頭と身体のリフレッシュがうまく出来るようになった。ここで仲間とバレーボールを追っかけていると、勉強や部活で忙しくてもだるくても毎日楽しかった学生の頃の気持ちを取り戻すことができた。いつの間にかこのチームはわたしにとって、自分らしく居られる場所となっていた。  だから職場でどんなことがあった日も、コートの中では心から笑えたのだ。
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