取り憑かないで!

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取り憑かないで!

「あのう、すみません亀谷さん……」  おずおずと後ろからかけられた声に 「資料ならそこに置いといて」 私は振り返りもせず言った。 遠慮がちに資料の束がおかれた、と思ったら机の上に積まれた資料や雑誌やらがドミノだおし的に傾き、デスクの上のマグカップを倒した。さあッと茶色い波が私の使っていたノートパソコンに押し寄せてきて、咄嗟にパソコンを持ち上がり席を立った。 「……っ。何すんのっ。全部オシャカにする気っ?」  思わず、声をかけてきた主、後輩の伊沢恭弥をキーッと睨んだ。 「すみません、僕、そういうつもりじゃなくてですね。ああっ、どうしようっ」 「私、あっちで作業するから、そこ、拭いといてよね」  余計なこと、しなくて良いから。ついでに片付けようとかしないでね、と振り返って私がくぎを刺す。すみませんと小さく呟いた伊沢君に軽く舌打ちすると私は伊沢君の席に陣取って再びパソコンの画面とにらめっこを始めた。  途端に私たちの様子を伺っていた女子社員が伊沢君を散り囲む。伊沢恭弥め、仕事は平均的なのに顔面偏差値だけは良いから、設計部の女子社員にちやほやされているのだ。 「伊沢君、気にすることないって」     
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