アンサンブル・カクテル

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2月のバレンタインデーを過ぎる。 雪が歩道を白く染める夕方だった。 結はいつも通りにスナック「月」へと出向く。 晴れやかな気持ちを消し去って、何月過ぎただろう。 日常の生活との二重奏が負担になり始めていた。 けれども根底にある金をほっする意識だけが強く押し出されている。 生活は昼間の仕事で成り立っている。夜の稼ぎは趣味や衣服に使うと決めてある。旅行も考えてはいたが気乗りはしない。 カナタは来ても二時間ほどで切り上げるようになった。イギリス行きが近いのでその準備に忙しいという。 結はできるだけ踏み込まぬようにカナタとの距離を取ろうとしていた。 営業にしか使わない電話番号も画面の下に沈んでいった。 これでいいと、思いながら雪の上を歩いて帰路に付いていた。 憂鬱なままに人生を見失っていく。 ため息と共に漏れたのは白い吐息だった。 明日もまた同じように仕事が始まる。 辞表を書くという行為すらできないままで秒針が音を刻んでいく。 夜の十二時を過ぎた道をタクシーが走っていく。 ヘッドライトが雪道を照らす。 結はなにげに見上げた星空に足を止めた。 月は凍りつくように空に貼りついている。星屑がやけに綺麗な夜だった。どんなに嫌がっても世界は変わらない。わかっているからこそ冷気に心身は震えていた。
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