アンサンブル・カクテル

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カナタが囁いてくる。 「ちょっと、なんですか、浅井さんも!」 運転席の常連客に助けを求める。 「結ちゃん、ごめんよ。カナタくんとイギリス行ってやれ」 「なんで、イギリス!」 結は混乱する。 「とりあえず、空港行こう」 「カナタさん、どういうこと!」 「パスポートとか用意できてるから。結の部屋も引き払った。御両親にも手紙は送ってある。その他の手続きも終わらせてあるよ。心配しないで」 「はあ?」 「父さんにも母さんにも言ってある。辞表も受理されてるはずだ」 「どういうことですか、なんのパワハラですか!」 「こうでもしないと脱け出せないようだったからね」 「余計なお世話です!」 「イギリスで暮らそう」 「勝手すぎます。ほとんど犯罪じゃないですか」 「なら、ずっとこのままがいいの?」 瞳を覗き込まれて結は揺れた。 もやが心から離れてくれない状況がずっと続いている。 眠れずに睡眠薬を手にしていたこともあった。最近、回数が増えている。人間のなにかが欠落しつつあったことは認めざるをえなかった。 「でも、ほとんど拉致」 「うん、まあ。浅井さんを巻き込んだからね。訴えられたら負ける」 「どうして、そこまで私にこだわるんですか」
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