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「言い触らそうと思っていたんだ。最初は。けどできなかった」
「毎日来てたのは私の情報を得るためだったんですね」
「そういうこと。見ていられなくなった」
車が止まるとそこは空港だった。
結は抗ったがカナタの力に勝てるはずもない。
しかし、飛行機に乗ってしまえば後戻りはできない。財布の中身は食費だけだ。銀行の解約はさすがにされていないだろうが、イギリスでは取引できない。
カードは部屋にあり、その部屋も引き払ったというだけに荷物は既にイギリスに送られたと言っても過言ではなかった。
「惚れたから、つれてく」
「警察、呼びます」
必死の抵抗も心から揺れていた。
今の生活から脱け出したいと心から思っていたからだ。
「どうぞ」
カナタはひどく淡泊に言って結を引いた。
迷いなく、搭乗手続きを済ませると、なんの行きの飛行機に結を乗せてしまった。
金属探知機の前で躊躇することはできたはずだった。
結はどこかで生活を捨てたいと願っていたのだ。
土地勘のない場所でやり直すことを諦め切れなかった。
ただ臆病な性格が引きこもり現象を起こしている。
それだけだった。
(優柔不断)
胸中でぼやきながら飛行機に初めて乗った。
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