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ひとつの秘密は秋の夜に見付かった。
繁華街から外れたスナックで結は入ってきた客から咄嗟に視線を外していた。
賑わうスナックに客は数人だ。店のママが接客をしている。結も定員だけに入ってきた客を立ちっぱなしにはできない。
慌てるように背の高い眼鏡の男性を空いている席へと案内した。
顔見知りの男はなにも言わなかった。連れの男友達と席に座って他の客と同様に夜の景色に溶け込んだ。
時間が駆け抜ける間、結は平静を装った。
男は連れと話し込んでいて結は眼中にないようだった。
結はこのまま逃げるように店をあとにするつもりだったが、連れの男が帰っても眼鏡の男は変える気配がなかった。
時間が来て、閉店となって外に出た結だったが、店のママが消えると男は呆れたように前に立ちはだかった。
「ずいぶんと暇なようで」
挨拶もなしにポツンと呟かれる一言に結は引き下がった。
「帰らないんですか?」
「そうもいかないだろう」
「私はもう終わりなので」
「質問に答えてくれてもいいんじゃないか?」
はぐらかそうとすればするほど優しい口調で切り返されることに結は泡立った。
目の前の男は高校の時の先輩で連絡を取り合う仲であり、仕事のことも知っている。そればかりか取引先の息子だった。
「確か、ダブルワークは禁止されていたはず」
責める口調では一切ない。どこまでも優しい響きは昔から変わる様子がなかった。
「店のママと知り合いで、仕方なく」
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