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一瀬結は高校を出たあと、アルバイトを数年続けて、親の紹介で事務の仕事に就いた。
其を機に独り暮らしを初めて三年目、もう少し余裕がほしいと考えて、友人の誘いでスナックの店員として週末だけ働きだした。
最初は続けるつもりも無かったが給料がずるずると生活の資金源となっていく状況に呑まれ、一年が矢のように過ぎていった。
辞めなければと思う反面で、膨れていく貯金額にどうしようもない達成感を感じるまでになった。
いつしか泥沼の人間関係に諦めも生じていた。
自分が苦手なことも仕事だからと圧し殺して酒を煽った。
酒はあまり強くない。重ねる接客の経験は結の本来の人格まで壊していった。
結自身も流されていく現状に止められない欲望がうずきだしていた。
平日の結は仕事に没頭している。誰もがそれを認めている。そのために終末の夜に見せる顔を知るものは居なかった。
それが一夜にして動いたのである。
会社の社長の息子であり高校の時のひとつ上の先輩であるカナタが結が働く店にやって来たのだ。
一週間経って社内には漏れていないことを自覚したが、金曜の夜は憂鬱なままスナックに足を運んだ。
その日はいつもの顔ぶれで特に何もなく、賑やかに時は過ぎていった。この職業はお客が大事だと結は思っている。それでも呑まなければ利益にならないのでグラスに酒を注いだ。
次も日も朝から仕事だ。会社の癖に休日出勤だった。一通りの仕事をおえて、身支度を整えて次へと向かう。
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