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その日も客足は少なかった。常連がぽつぽつ席を埋めてカラオケを楽しんで適当に帰っていく。カナタは出張で顔を見せなかった。結はその事にひどく安心するのを覚えていた。
結が見知らぬボトルを目にし始めたのはカナタ店に来るようになって数週間たってからだった。客の居ない閑散とした金曜日、結は何気に店のママに聞いていた。
「カナタ君が持ち込んでるの」
店のママはそう言った。
「他の日も来るんですか?」
「お気に入りの子が居るからじゃない?」
「ああ、なるほど」
「それにしても今日は酷いわね。誰も来やしない」
「メールでも送ってみましょう」
人が居ないときのスナックは静かで暇で、カラオケのバックミュージックがやたらと煩い。
その日の金曜日は結局誰も来なかった。そんな日は給料は出ない。最近、とんとん拍子だっただけに疲れがどっと押し寄せた。
スナック「月」には結の他にふたり雇われている。どちらも週に二日入っている。もちろん、ダブルワークで、小遣い稼ぎが目的だった。生活資金を稼ぐ結とは話が違う。結は週末を明け渡してそろそろ抜けようかとも考えている。カナタがいつ社内でこの事を言い触らすのかと思うだけで背筋が凍る。要らないストレスが最近増えてきた。
結は帰り道を歩いていた。
三日月が綺麗な夜だった。
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