10人が本棚に入れています
本棚に追加
林さんのお家
母が仕事の時
学校から帰って1人で留守番が寂しい時
「林さんのお家にお邪魔しなさい」
林さんのお家とは
私の住んでいたアパート、
ジョリーハウスの
向かい側にある
大きな一軒家でした。
当時の私から見たら
お屋敷、といえるお家でしたが
今考えると決して豪邸ではなく
『戦前の東京のアッパーミドルの住宅』
というところだと思います。
わかりやすく言うと
小津映画で
原節子が住んでるようなおうちでした。
木屏に囲まれ、引き戸の門があって
門を入ると砂利が敷いてあり
玄関まで平たい飛び石がありました。
木の桟がはまったすりガラスの
ガラガラっと横に開ける玄関で
玄関の上には朝顔型のランプが垂れてるような
そんなお家です。
私がお邪魔してたのは
1975年頃でしたが
西荻のそのあたりは、まだ
戦争で焼けなかった古い住宅が
所々残っていたのでした。
玄関の土間は広く
靴箱の上の壁に薔薇の油絵が
飾ってあり、コートや帽子をかける
ところもありました。
玄関上がってすぐ右に
小さな洋間がありました。
この部屋は庭から見ると
半六角形に出っ張っていて
縦長のガラス窓が並び
西洋のお城のような鉄の斜め格子がはまっていました。
庭に沿った廊下があり
廊下に二間続きの広い和室。
和室の内側に板間の食堂
その手前にやはり
板間の台所とお勝手口。
思い出せば、自分でも驚くが
スラスラと見取り図が書けるほど
覚えています。
母が林さんと仲良くなったのは
私の制服姿を
林さんのおばさまがみとめて
声をかけてくれたからでした。
林さんの1人お嬢さんのマリさんが
同じ学校の卒業生だったのです。
マリさんは、私が初等科3年生のその頃は
もう高等科を卒業して
聖心女子大学の英文科に通っていました。
真ん中分けの黒髪が長くて
色白の丸顔に
細い目がいつも笑っている
指や手の甲がふっくりしてるような
可愛らしい女子大生でした。
私はそのマリさんに
英語を教わることになりました。
私の学校では2年生から英語の授業があったので
その時に使うABC ブックを持って行って
A apple
B book
C church
と、読み方を習うのです。
アップルとブックは読めても
何度教わっても
チャーチのところでいつも読めなくて
私はバカを晒しました。
可愛く素敵なマリ先生に
バカなのが知れて恥ずかしく
私はチャーチのところに来ると
おちゃらけて踊ったりして誤魔化します。
するとマリさんは怒らないで
うふふふ!と
お上品に笑ってくれるのでした。
最初のコメントを投稿しよう!