コロラドとポエム

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 1年生から短い間ですが、私は千駄ヶ谷の高層マンションに住んでいたことがありました。高層といっても今から40年以上昔ですから14階建てです。明治通りに面した「第七宮廷マンション」というゴージャスな名前の普通のマンションでした。  1階に「明治」という喫茶店があって、たまに母と入りました。そこの思い出は「チキンのマカロニグラタン」です。私は子供の頃から今に至るまでホワイトソースの料理が好物ですが、「明治」の楕円形のキャセロールに入ったグラタンは、母の作る本格的な「カニのグラタン」よりソースがずっと薄くサラサラして、子供にはかえって食べ易かったと思います。  母の作るグラタンは「飯田美由紀さん式」だそうで(母は結婚前、飯田美由紀本人が教える西洋料理教室に通っていました)、小岩井牛乳と雪バターがたっぷりの濃厚なホワイトソースが特徴でした。カニ缶を汁ごと入れるので風味も強く、マッシュルームや玉ねぎのバター炒めがたっぷり入ります。マカロニも「コンキリエ」や「フリンジ」という肉厚のものを使うことが多かったです。キャセロールにたっぷりバターを塗って、材料の上にはパルメザンが表面が見えなくなるほどかけます。それが薄茶色に焦げるまで焼くのです。母のカニグラタンは私の大好物ですが、一方「明治」のグラタンはチキンブイヨンのあっさりした味で、細いマカロニの他には小さな鳥肉と玉ねぎがちらちら入り、上にマッシュルームの薄切りが2つ3つ乗っているだけ、おやつにぴったりのボリュームでした。食が細い上に、学校の給食に慣れずに残すことが多かった私は、学校から帰ってくる頃に丁度お腹が空いて、おやつ代わりにこのグラタンをぺろりと平らげ、「痩せの大食い」と父や母にからかわれたものでした。
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