コロラドとポエム

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 私が2年生を終える頃、両親は別居して、私は母と二人で西荻窪のアパートに住みました。母はその狭い部屋にサーモンピンクのじゅうたんを敷き詰め、オレンジとピンクのチェックのカーテンを吊るし、その頃流行り出したサンリオの透明なドールハウスを飾りました。父と別居したことで私を不憫に思ったのかもしれません。別に私はそんなものは欲しいとは思って無かったのですが。  ここでの思い出の喫茶店は西荻窪の駅近くの「こけしや」というフランス料理屋です。大正時代の荻窪が「文士村」と呼ばれた頃からあるフランス料理店らしく、2階は本格フレンチレストラン、一階は薄暗いシックなティールームで、私はそこの「ソレイユ」というケーキが気に入りでした。ソレイユはフランス語で「太陽」とか「ひまわり」と言う意味だそうで、三角のスポンジの上に、黄色くつやつやした二つ割りの黄桃のシロップ漬けが伏せてあり、その周りを生クリームが放射状に取り囲み、ひまわりの花のようになっているのです。しっとり焼き上げたスポンジと硬めの生クリーム、甘酸っぱい黄桃のシンプルな味。母はコニャックのたっぷりしみ込んだサバランが好きだったと思います。
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