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春の新色、虹色リップスティック。
CMのワンカットを切り取ったような馬鹿デカイ広告パネルの前で友人は待っていた。
室生 梓が美少女の唇に口紅を当てている。
王子様は、どアップで微笑んでいた。
「よぉ、お待たせ。喰われそうだな」
「お、ああ、カレンちゃんになら喰われてもいいかも。そういや、こいつって俺らとタメなんだな。大学で見たことないけど。活動休止とか生意気言いやがって。知ってた?」
「知らん。なんちゃらカレンも知らん」
「えぇ?こんな露出度高いのに?」
「こんなに、ってどんなにだよ」
「どんなって、こんなだろ。とにかく、これは近過ぎ」
そう言って、室生の鼻先を指で弾いた。
近かろうが、キスをしようがお前には何ら関係はない。
活動を休止してもこうして媒体に載り、流れている。
それは、既に亡くなった俳優が今も生きているかのように、或いは、若い時のまま画面に映るのと似て、其処ではいつも時間が止まっているのだ。
「何?」
「ん、なんでもない…」
振り向いて斜めに見える室生から、溜息が零れた気がした。
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