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伝説の盗賊
はぁ、はぁ。くそ。
もう逃げ切れないと言う事が本能的に分かった。
幾多の戦いを経験してきたオレだから、このまま奴等に捕まって殺されるか、もしくは運良く逃げ切れたとしても疲れきったこの体じゃこのまま命が尽きるのを待つしかないと言うことがよく分かっていた。
4本の足で精一杯走っていたが、もう限界だと言うことが分かり人間の姿に戻った。
しかし、もう不十分な人間の姿は、耳と尻尾だけでなくほとんどが狐のそのままだった。
そうだな、ここで命を落とすべきことがオレの宿命なのかもしれない。
散々悪さをしてきて、多くのものの命を奪ってきたオレに相応しい死に方がやってきたのかもしれない。
でも、何故僅かながら、死ぬことを抗ってしまうのか?
何故、僅かながら生きたいと言う思いがあるのか?
それは、きっと……。
ぽつりぽつりと雨が振り出してきた。
傷口に染みてくる。
小雨だった雨が激しくなる。
雨音しか聞こえない森の中、オレは木陰に足を伸ばして座り込んだ。
もう助からないと分かっていた。
それでも、もう一度、もう一度、あの少女に会いたかった。
全てを無くしたオレにとって彼女だけが救いだった。
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