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2、海辺にて
また私はこんなまだ夏にもなってないのに、裸足で波に足をつけてはしゃいでいる。
つまんなそうな顔してるじゃないの。
タバコ吸ってるじゃないの。
こんなのつまんないわよね、どうして言わないの?
つまんないくせに。
誰が楽しいの、このくそ寒いのに。
誰のためにこのくそ寒いのに、裸足で馬鹿みたいに笑ってるのよ。
今はテレビコメンテーターのおじさんもコラムニストのおばさんもいないんだから、そんなことしなくていいのよ。
隆がつまんなそうじゃない。
何で海が見たいなんて、アホなことを平気で言うのよ。
すごく嫌そうだったじゃない。
当たり前でしょ。
もう会いたくない女と何しに海なんか行くのよ。
で、また何でこのバカはこのクソ寒いのに裸足で波に足付けて笑ってるのよ。
相手はそれをもう耐えられないくらいつまんながってるのよ。
あんたももう耐えられないくらいつまんないんじゃない。
なのに何でこんなつまんない×2みたいなことをやってるのよ!
(いいじゃないの。どうしろって言うのよ?こんなとこで二人で座って黙ってろっていうの?)
全然愛してないのよあの男は。
私がこんなバカにされるためにバカなことばっかりして、遊びにもいかないでバカなことばっかりやってきたっていうのに、あいつは私といるのがつまんないのよ。
わかる?
つまんないのよ。
ほらほら、電話してくるってさ。
いくらでも女にモテるもん。
いくらでもいるのよ。
電話なんか携帯なんだからここですればいいのに。
でも誰も世間的に見ても、私が悪いことになるのよ。
わかったような顔して、自分のことしか考えてなくて、ただ世の中うまく立ち回っているだけみたいな勝ち組のおっさんに「バカ女、ざまみろ」って思われるのよ。
偉そうにつまんないコラム書いてるおばさんに「女性としての魅力がなくて薄っぺら」とか言われるのよ。
でもそう言ってもらえて、私はやっと立場があるのよ。
あいつもそうよ。
私を棄てても世間で悪いとも思われないで、そんなの当然でさ、友達ともうまくいくし、会社も順調なんだってさ、課長との付き合いは大変だよだってさ、見込まれてんだろ。
お母さんとも仲良くて、女友達もいっぱいいて、まるで爽やかイケメンみたいな奴なんだよ。
若者の兄貴的存在なんだよ。
わかるか?
誰がそいつを悪く言うの。
私は物凄く、誰にもわからないように一番みっともない女を一生懸命やってきただけなんだ。
ほらほら帰ってきたよ。
急用が出来たから帰ろうだろう?
それで車の中で切り出すんだろ、
わかってんだよ。
君を傷つけたくないだって、
もうズタズタに何も残ってないよ。
今さら何をどう傷つけっていうの。
もう私のやることは決まってんだ。
ジュース買ってきたって?
いらないよ。
もうやる事は決まってるんだって言ってんだろうが!
それはあんたをぶっ殺すってことだよ!!
隆は波打ち際で血まみれで倒れている。
私はなんだかすごくホッとしてさっさと帰った。
私がバカなのはもうわかってる。
もうわかってんだ、子供の頃から。
私はナイフをハンカチで拭いてポケットにしまいこんだ。
でも…
ただ全てが馬鹿野郎なんだ。
今はそれしか言えませんね。
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