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軽い昼食を求める人の波がようやく消えた昼下がりの喫茶店「風見鶏」。ほっと一息をついたこの店のマスター、風見は、最後の客の食器を片付けるために銀盆を取り上げた。…と、ドアに取り付けてある鐘が鳴った。客を迎える声を出そうと、顔を店の入口へと向けた彼は、先に挨拶をされる形になる。
「こんにちは~」
顔に貼り付けただけの営業スマイルを一変し、風見は心の底からやってきた人物を歓待した。
「やあ、いらっしゃい。五樹くん」
店内をキョロキョロと見回す五樹に、誰も居ないから適当に座っていいよ、と声をかけ、風見はテーブル席の片付けをするべく身体を動かした。風見と行き違いになる形で、五樹はカウンター席へと向かう。
「今日はどうしたの?」
テーブルを拭き終え、食器を載せた銀盆を持ち上げた風見は五樹に問いかける。察するところ、家族に言えない相談事でもあるのだろう。
「うん? う~ん………」
黙ってスツールに腰かけていた五樹は言葉にならない唸り声を発し、風見を振り返った。その表情には悲愴感が漂っていた。悲哀の籠った瞳の色を見るのは辛い……、そう思った風見は静かに視線を逸らす。
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