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外での仕事から帰ってきた先野光介は憮然とした表情を張りつかせ、ノートパソコンだけがポツンと置かれている自分のデスクにつくと、「くそー」と息を大きく吐く。38歳という年齢からくるくたびれたオーラが周囲の湿度をあげているようだった。
興信所「新・土居エージェント」の事務所では、きょうも大勢の探偵が各自抱える仕事をこなしていた。活気のある職場である。
「まぁ、そんなこともありますよ」
励ます気持ちのまったくこもっていない口調で言ったのは、先野とともに事務所に帰ってきた同僚の三条愛美だった。
「だいたいだな──」
人差し指を立て、先野は弁解じみた言い訳をする。
「ネコ捜しなんてのは、おれのする仕事じゃねぇよ。おれにはもっと大きな……なんだ、人間の隠れた素性に迫るような……」
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