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そしてその子息である三人の男。最後にやや年輩の男が、弁護士の蜜山だと言う。弁護士がここに顔を出しているのは今回の依頼に関わるかららしい。
へんな緊張感のなか、先野は帽子をとって会釈する。
黒檀のテーブルには一枚の便箋がおかれていた。それを息子のひとりが正座した先野のほうへとやる。
「電話でも話しましたが、これが親父の遺言書です」
早口で言った。興奮を隠しきれない様子である。
先野はこの遺言書の件で呼ばれたのである。弁護士立ち会いのもと、遺族がそれぞれの思惑を胸に顔をそろえ、まるで「犬神家の一族」だな、と思う。
「拝見します」
先野は故人に敬意を表すように、取り上げた便箋を額の上にかかげ、折り目を広げて黙読する。そこには力強い筆跡で簡素に遺産の分配が記されていた。
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