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「そんなに落ち込むなって…なあ、悪かったよ、堀越」
桜田の声が何か言っているような気がする。
堀越はぼんやりと突っ伏していた机から顔を上げた。
「今度の合コン、ちゃんとお前にも声かけるからさー」
「ああー、うん……さんきゅ」
上の空で答える堀越に、桜田はますます心配そうに顔を覗きこんだ。
「お前、ホント大丈夫か?どっか体調でも悪いんか?」
「いや…うん…ちょっと眠れなくて」
堀越は、再び机に突っ伏した。
次の授業は出なくてもなんとかなりそうな一般教養だ。
このままここでへたっていても大丈夫なはず。
「眠れないって…そんなにバイトのシフト詰め込まれてんの?」
なんだかんだ言って、桜田は堀越を心配してくれているらしい。一緒に次の授業はサボることに決めたようだ。
「それともなんか悩みでもあんのか?」
悩みなら、ある。
そしてそれはバイトとも無関係ではないから、桜田の心配は的を得ている。
……多少のズレはあるけれども。
堀越は、うんまあ大したことじゃないからとかなんとか、口の中でゴニョゴニョと言って、そのまま目を閉じた。
たいしたことじゃない……のだろうか?
睡眠不足のせいで、すぐにやってきた睡魔にウトウトと身を任せながら回らない頭で考える。
ここ数日、毎日毎日、情熱的に口説かれている。
それはたいしたことじゃないどころか、舞い上がるほど嬉しい出来事に違いない。
例えそれが、自分の好みでない子からのアクションだとしても、だ。
いや、好みでないというのはちょっと違うかも。
相手は恐ろしいほど魅力的で、顔もスタイルも声までもが完璧なんだから、惹かれない人間なんていないと思う。
話し方も振る舞いも品があって、身に付けているものから察するに一流の生活ができる水準の収入があるのは学生の彼から見ても明らかで。
好みでないどころか、好きかもしれない…。
友達とか、知り合いとか、先輩とか、つまりそういう間柄ならば。
レンアイ対象としては見られないというだけで。
だって、相手は、完璧すぎる大人の男なのだ。
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