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「仕事上がりで疲れているだろうに、私のワガママに付き合わせて申し訳ないけれど」
内心に膨れ上がる大人の欲望を押し殺すためにあえてゆったり微笑みながら、そう言って助手席を見る。
堀越は目が合うといつも顔を赤らめて俯くのが、また堪らなく可愛い。
「どうしても君と一緒の時間を過ごしたいんだ。なんなら寝ててもいいから、少しだけそこに座っていて欲しい」
「いえ、あの…く、車!」
堀越はやや上擦った声でそう言って、遊佐と視線を合わせた。
話すとき、どんなに照れていてもちゃんと目を合わせようとするところも、遊佐が堀越にメロメロな理由の1つである。
「こんな高級な車、そうそう乗れる機会ないんで…ワクワクしてるから、寝たりしませんよ」
「君が乗りたいならいつでも…」
乗せてあげるのに、と言いかけて、遊佐は言葉を言い換えた。
「借りてあげるから」
なんで借りたなんて言っちゃったんだか…全然かっこつかない。
自分にツッコミを入れながら、とりあえず、車をスタートさせる。
ドライブコースは、もちろん完璧に組んである。
堀越の笑顔を見たい、その一心で考え抜いたコースだ。
が。
「堀越君は、工場とか好き?」
最近何かと話題の、工場の夜景が美しい場所へ車を走らせながら、話題を振ってみたら。
返事がない。
チラリと横を見ると、寝ませんと言いきった5分後には、お約束のようにスヤスヤと寝息を立てている想い人が。
寝顔が可愛すぎて犯罪…
口では寝てもいいよなんて言ってはみたものの、実際に隣で無防備に寝られると、それはまるで地獄のような耐久レースの始まりだということに、そうなって初めて遊佐は気がついた。
「堀越君…」
寝てもいいよと言ってしまった手前、起こすわけにもいかず。
見せたかった夜景の場所へ着いてしまったら、そのあとは運転に集中して気をまぎらわすなんてこともできず。
完璧なイケメンの恐ろしい煩悶なんてまるで気づかない堀越は、遊佐の匂いのする上着にくるまれて、なんだか久しぶりの安らかな眠りを貪っていたのだった。
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