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「ありがとうございましたぁ」
堀越のバイト先は、彼が一人暮らししている格安学生アパートの1階にあるコンビニである。
何も考えず、ただ近くて時給もそれなりでお手頃だったので、大学入学後まもなくから始めて今に至っている。
1年半もやっていると、住んでいるところに近すぎる職場だといろいろ問題があるということも身に染みてわかってはいるけれど、当然ながら近すぎるために辞めるに辞められず、ズルズルと続けているわけだ。
「いらっしゃいませぇ」
顔見知りの常連客がいつもの炭酸飲料とガムをレジに置いたので、言われる前にいつもの銘柄の煙草を一箱取り出して渡す。
無愛想なオッチャンがちょっと頬をゆるめてくれるのが、毎度のことながらちょっと嬉しい。
「ありがとうございましたぁ」
ほんのりとほのぼのしながらオッチャンを見送って、次のお客さんに向き直る。
「いらっしゃいま…せ…」
芸能人?
一瞬、堀越は言葉を詰まらせて、慌てて頭を下げて、レジに商品を通した。
それぐらい、なんというか、オーラのあるお客さんだったのだ。
年の頃は、堀越より10歳ぐらい上だろうか。
ファッションに疎い彼にもそれとわかるぐらい上質そうなスーツを自然に着こなして、それを全然嫌味に感じさせない品のある端正な顔立ち。
何より、身長だけが取り柄の自分よりも数センチ背が高いことにもビックリする。
目線が合うのだ。
自分が女子だったら、まさに一目惚れしてしまうに違いないだろうなぁ、と、なんだかソワソワ落ち着かない気持ちになりながら、堀越は、そのお客さんがレジに置いたのど飴と天然水を袋に入れた。
「298円のお買い上げでございます」
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