9月の別れ

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名も知らぬ駅で降りる。駅員は誰もいなくて、時間の流れが止まったような錯覚に陥る。 駅を出て見えた町並みは色褪せていて、活気など無縁なものだった。歩いている人もいなくて、とにかく寂れた風景で、もっと時間が過ぎたら私もこうなってしまうような、そんな感覚を覚えた。 その中を気が赴くままに歩いて、時が止まった風景を歩く。人一人見当たらない閑散とした風景が私には心地よくて、捨ててしまいたいものを置いていくにはぴったりだと思った。 歩き回って見えたのは、一面の青。くすんで褪せてしまった青色は、私の歩みを止めるのに時間はいらなかった。 ここも時間に取り残されて、褪せてしまったのかと考えてしまう。ずっと変わらないと思っていた色も、こんなに寂しげに見えてしまう。全ての命も、一人だとこんなにも寂しげで退廃的だった。 真夏の恋は止められた時間に置き去って、切り離してしまおう。 傷は痛む。けれど治らないわけではない。それまでは庇いながら生きていこう、そう思った。 後悔も未練もなにもない。ただそこに残った情だけが切り離せずに残ってしまった。 小さな優しい嘘と共に、残ったものを切り離して、また歩み始めようと、そう思った。
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