後妻ビジネス 180925

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 それから一月半が経った。  三月。  患者の親族と名乗る男が、はるばる東京から俺の元へとやってきた。  加藤一郎。  彼は患者の長男だと名乗った。  「父は認知症なんかじゃない」と一郎は言った。「後妻の美奈子に騙されているんです」と。  後妻? 後妻というのはあの娘さんのことか。てっきり娘さんだと思い込んでいた。後妻か。娘ではなく。  道理で。変に患者とべたべたする感じだった。娘にしては色目を使い過ぎだ。なるほど。後妻か。美奈子。ううむ。  一郎のその告白を聞いた後も、俺は冷静に対処した。  「お父様には認知症の症状が散見されます」と淡々と言ってやった。「入院をして、様子を見るべきだと判断しました」と。  一郎はうなだれて東京の自宅へと引き返して行った。  医者から言われれば聞くしかない。それが親族の宿命だ。それ以外に彼らの選択肢はない。
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