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一瞬顎を引いた美奈子が、俺に接近したと思うとその身体を預けてきた。俺が抱き寄せる前に。向こうから来た。美奈子から来たのだ。
匂い。甘い匂い。
これは何だ。懐かしい。ミルクの匂いか。
吐息。甘い。
絡む。絡みつく。美奈子の吐息が。美奈子の身体が。俺の身体に。絡みつく。まさに絡みつく。汗か。油か。しっとり。ねっとり。軟体動物か。豊満な肉体。絡んでくる。軟体動物。
この女、着痩せするタイプってやつか。俺は頭の片隅でようやくそう思った。既に俺の思考回路が軟体動物の毒にやられて麻痺してしまっているかのようだった。
乳房。たわわな乳房。美奈子のたわわな乳房。
貪りつく。貪りつく俺。
幻影。俺の頭を支配していく。支配されていく。
俺は貪りつく。美奈子の乳房。大きくてマシュマロみたいだ。
懐かしい。
ママ。
これはママか。ママのオッパイか。
そしてそれは。いつの間にか。
タコ、タコだ。
大ダコ。
大ダコに絡め捕られる俺。
俺は。
俺は獲物だった。
驚くべきことに。
獲物。
俺が。
俺が獲物だったんだ。
大ダコの獲物だったんだ。
ちょっと待て、と俺は思った。
違う。違うんだ。
絡め捕られるのではなく。俺が絡め捕る筈なんだが。
思った時にはもう遅い。
獲物になるなんて馬鹿だ。獲物になり果てるなんて馬鹿な生き物だ。そう思っていた。
しかし。
この世のどんな生き物も、自分が獲物になってしまうなんてこれっぽっちも思っちゃいない。
獲物になったと気付いた時、初めてしまったと思うのだ。
そうなった時には、もう遅い。
俺は。
美奈子に。
絡め捕られる。
埋没していく。
埋没。
遅い。
もう遅い。
END
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