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時折吹き込んでくる風に木々がざわめく音を聞きながら、途方に暮れるしかなかった。
唐突に、本当に唐突に私はこの場所に立っている。
それこそ本当に夢でなければ、こんなこと絶対にありえないのだ。
「どうしよう……どうすればいい?」
何が起こったのかわからないまま、たった一人で知らない場所に放り出されるなど、混乱しないほうがおかしいのだ。たとえこれが夢でも、私は確かに不安と恐怖を感じている。
「どうしよ、このままここにいるわけにもいかないよね。でもどこへ行けば……」
立ち竦んだまま一歩を踏み出すか否かを考えていると、遠くから犬のような、狼のような遠吠えが聞こえてきたような気がした。私はびくり、と身体を震わせ、周囲を素早く確認する。
「……歩こう」
このままここにいたら危険な気がする。
そう判断して、私は舗装すらされていない獣道を真っ直ぐに歩き出した。
しかし歩けども歩けども、見えてくる景色は変わらないままだ。
気を抜けば、不安と恐怖がごちゃ混ぜになったような、負の感情に押しつぶされそうになる。そんな自分を叱咤しながら、私は足を進めていく。
「でも、獣道でも道があるってことは、誰かが一度でもここを通ったってことだよね」
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