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両親が共働きの家庭であるため、誰かが欠けた状態で食事をするのは日常茶飯事である。
「ふうん、お父さんも大変だねー」
「一家の大黒柱なんだもの、仕方ないでしょ。それに、あんたもいずれ嫌でも働くようになるわよ。学生生活を楽しめるのなんて今だけよ今だけ!」
「うっわ、やだなー!現実見たくないわー!」
そんな風に母親と他愛もない会話をしながら、おいしい食事に舌鼓を打つ。
そうして最後の一口を食べ終え、冷たい緑茶で喉を潤していると、母親が壁掛け時計を見上げながら何かを思い出したようにあっと声を上げた。
どうしたのかと問えば、なんでも隣の家に用事があったのだという。
そういえば、朝隣の家がどうのって言ってたような気がするな。内容は忘れたけど。
「あーもうすっかり忘れてたわー。どうしましょ」
「それってそんなに大変なことなの?」
「大変ってわけじゃないけど、隣の奥さんに頼まれてたことがあってね。ああでも今手が離せないし……」
そのまま壁掛け時計とにらめっこすること数秒。
すぐに何か名案を思いついたような表情でこちらに視線を向けてくる母親に、嫌な予感を禁じ得ない。
「琴葉、あんた私の代わりに行ってきてくれない?」
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