第1話

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「ええっ、ご飯食べたばっかりだし嫌だよ!それに時間ももう遅いし、お隣さんも迷惑なんじゃないの!?」  カーテンで遮られ、窓から外を窺い知ることはできないけれど、正直見なくてもわかる。  どう考えても外は真っ暗だ。お宅訪問には遅い時間だと思う。  しかし、母親はどうしても今行ってほしいようで、なおも食い下がってくる。 「お隣の奥さんなら大丈夫よ!仕事が終わったら伺います、って言ってあるし、このくらい許容範囲だと思うの」 「いやいや、それお母さんの持論じゃんか!」 「だーいじょうぶだって!ちょっと書類を受け取ってくるだけだから!……ほらっ、行った行った!向こうはお母さんの名前出せばわかるはずだから!」 「えー……」  ほらほら、と急かされ、私は仕方なく席を立った。  そこまで言うなら自分で行けばいいじゃない、なんてことは敢えて言わない。  どうせ部屋に戻ってもオンラインゲームに興じるだけだし、きっとその用事は今日中でなければならない何かがあるのだろう。できるだけ好意的に解釈しておく。内容はよくわからないままだけど、行けばきっとなんとかなるはずだ。  私は携帯電話をジーンズのポケットに押し込み、玄関へと進んでいく。     
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