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今の私の恰好はロングTシャツにジーンズというとてつもなくラフな格好だが、別にかまわない。そこまで気を遣い合う間柄でもないはずだ、と私はスニーカーを履いて、何も考えずに玄関のドアを開けた。
そう、確かに開けたのだ。いつものように、何も変わることなく。
だからこそ――玄関から一歩外に足を踏み出した瞬間景色が一変するなんて思いもよらなかった。
「………………は?」
たっぷりの沈黙の後、やっと私が口にできたのはたったそれだけ。
目の前に広がるのは、見慣れた庭の風景ではない。
例えるならば、鬱蒼とした深い森。
小高い木々が数多く立ち並び、それらを取り囲むように背の高い草が生い茂っている。視線の先には、かろうじて道と呼べるような、細長い獣道が続いていた。木漏れ日はほとんどなく、どことなく薄暗い印象を受ける。
「え……?は……?なに……?」
何が何だかわからず、とりあえず家の中に戻ろうと即座に踵を返す。
しかし、振り向いた先に私の家は無く、木々や草花の緑が視界を覆い尽くすのみ。
「……これ、夢?」
これは夢だ。夢に違いない。
私は即座にそう判断した。
「あっはっは、やだなー私ったらいつのまに寝ちゃったんだろ。おっかしーなー」
貼り付けたような笑顔のまま、頬を軽くつねってみる。
ありがちな確認方法だと思うけれど、他に方法も思いつかなかったのだ。
「……痛い」
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