第1話

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 頬に走るのは、ぴりっとした小さな痛み。  つねったのだから痛みがあるのは当然だ。だけど、今はそのごく当たり前のことが逆に私の不安を煽る。 「えい」  今度は、両手で頬をぺちりと叩いてみた。  強く叩きすぎたのかもしれない。両頬がじんとした痛みを持つ。  このとき私の中で頭をもたげた存在は、焦燥感という名だったか。 「夢って痛みすらリアルに感じられるものなんだねー。初めて知ったわー。これが明晰夢ってやつかなー」  語尾が少しだけ震えたのは、きっと気のせい。  ――だって。  だって夢でなければ。私は。 「…………やめよう。とりあえず、現状把握だよね、うん」  今の段階でこれ以上考えるのは得策ではない。とりあえず今は現状把握が先決だ。  私はつい今しがたまで家で夕食を食べていたはず。そして母親の頼みで隣人を訪問しようとドアを開けたはずなんだ。 「もしかして、寝ぼけたまま近所を徘徊しちゃった、とか?」  一度深呼吸してから、周囲をきょろきょろと見渡してみる。  だが、何度確認してみても自分の家の庭とは似ても似つかないし、記憶を手繰り寄せてみてもそれらしき風景に思い当たることはなく。 「……ここはどこ?」  言葉にしてみても、答えをくれる人は誰もいない。     
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