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誰かが……いや誰もが、別人のようだと言っていた。その通りだった。
かつて人気を誇ったバンドの一員だった彼も、今では一人になって、酒と音楽を静かに楽しめるような店でのライブ活動を中心にしているという。
今隣で日本酒を静かにすする横顔は、あの頃の危険なほどの鋭さを微塵も感じさせない。
男はとまどい、穏やかな笑顔でグラスを傾けているかつて自分のものだった男に、昔を探そうとした。なぜか不安にかられながら。
視線に気づき、のぞきこんでくる瞳。柔らかな、いたわり。どうかしたかと無言で問う笑顔に、わざとらしいため息で返す。
「ここじゃ、話できない?」
二人が出会った、懐かしい店のカウンター。さっきから黙りこんでいる男を気遣う声と表情。
「ああ、お前が泊まってるホテルで飲もうか」
年上の余裕を見せたかったが、声は正直でからからに乾いていた。
「いいよ、行こう」
じゃあマスター、また明日。目の前で交わされる穏やかな挨拶としっかりした握手に、男はやはり違和感のようなものをぬぐいきれない。
かつての彼は常に自信に満ち、わがままで、あからさまに人を見下すようなところがあった。きらめく才能に対する周りの尊敬が、性格のエッジをますますきつくした。プライドを傷つける者には容赦がなく、時には殴りあいのケンカをして帰ってくる。気が立って乱暴な口をきき乱暴に欲情しているのを、それを上回る力で抱くのは、たまらない快感だった。
「……ああ、そうか……」
ネオンがまぶしいばかりで人通りがない道を歩きながら、男はつぶやいた。
「なに? どうしたの?」
「いや、なんでも」
苦い思いで男は答え、長く伸ばしたくせっ毛をなでつけている彼に訊いた。
「髪、ずっと伸ばしてんのか」
照れ笑いにも似たまぶしい笑みを、街灯が照らし出す。
「ん……、昔の傷、隠したくてさ」
彼はそう言って、左目のあたりに手をやった。
ああもう、俺はこいつに本当に用がない、と男はさみしくなった。立派になったな、と素直に喜んで肩をたたいてやることは、男にはできなかった。したくなかった。
「やっぱり、帰る」
男の言葉に彼は微笑み、あっさりうなずく。
男はうつむいて苦笑した。いったいなにが、彼をここまで変えたのだろう。昔のぎらぎらした刀のような輝きは、今では冬の太陽のようだ。
「それじゃ、元気で」
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