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緑は憂いの表情を浮かべて、鏡の前に座った。
すっぴんの肌はハリがあり、シミひとつ、ニキビいっこだってありゃしない。
(可愛いけど、ちょっと疲れた顔してるな……)
まじまじと鏡を覗き込み、はぁー、と大きなため息をつく。
緑は、高校1年生の時から『オトコの娘・谷川ミドリ』として、モデルの仕事をしている。
陶器のような滑らかな白い肌。くるくるとよく動く大きな瞳を持ち、手足が長い割に身体が華奢だったから、小さい時からよく女の子と間違えられた。
そして、その誤解は中学時の変声期を迎えても続いた。
きっと男性ホルモンが足りないのだろう。
絹を裂くような悲鳴まではいかねど、女の子に混じってソプラノパートを歌えるくらい声に変化はなかった。
あの時の喉のイガイガは、ただの風邪だったのかと時々思う。
本来は勉強机であろうその上には大きな鏡が置かれ、その前には基礎化粧品やメイク用品がズラリと並んでいる。
美容クリームを手に取り、触れば出っ張りがあるとわかる喉元から耳の付け根にかけて、優しく撫でるようにマッサージを施す。
女装は嫌いじゃない。いや、むしろ好きな部類だ。
女装していると周りは完全に女の子だと思い込む。そういう周りの態度に対して、ぶっちゃけ優越感すら感じている。
だから、街でスカウトされた時も大して驚くこともなく、すんなり女装モデルの仕事を始めた。
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