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「どうしたの、お姉ちゃん。体が地球儀みたいにくるくる回っているけど」
列車の汽笛が聞こえている。けれど、私はもう乗りこむつもりはない。
「全部思い出したんだよ。この本の内容も、自分が死んだ原因もね。危うく、自分を殺した凶器を冥土の土産にするところだったよ」
妹の目がふっと曇る。
「ちがうよ、お姉ちゃん。わざとじゃないんだよ。あれは不幸な事故で……」
「うるさい!私はもう天国に行くのはやめた。あんたと、地獄に落ちる!」
私は持っていた本を妹の額めがけて思い切り投げつけた。途端に汽車の汽笛は遠のき、床が抜けて、私は烈火の地の底へと怒りの声を上げながら落ちていき……ドシンと床に投げ出された。
あれ、床だ。床が抜けて落ちた先が、床。
「お姉ちゃん、今の音、なに!?」
驚いた妹が部屋に駆けこんできて、床に転げた私を見下ろす。
「えーと、つまりは夢オチってやつだよ」
私はきまり悪くなって、よっこらせと立ち上がる。壁の時計を見ると、もう10時を過ぎていた。
枕元を確認すると、例の本があった。
『真夜中の侵入者』……夢とはいえ、こいつのせいで妹を殺人犯に仕立て上げるところだった。
「きっと寝すぎて悪い夢を見たんだな。はい、これ。先に読んでいいよ」
小春は目を丸くして「いいの?」と私を見つめる。
「いいのいいの。しばらく見たくないから……それに、殺されちゃかなわないし」
妹は「ん?」と首をかしげて、でも私の気が変わらないうちにと思ったのか、分厚い本を抱えてすばやく退散した。
いや~、寝すぎるのも考えものだね。頭がズキズキするよ。
と、おでこのあたりをなでたら、ぽこっとはれて痛くなっているところがあった。
「あれ、どこまでが夢だったんだろう?……」
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