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「まさか、あんたが犯人だったなんて……ショックでまた死にそう」
「はあ?なに言ってるのお姉ちゃん。本の読みすぎで、また変な妄想でもしてた?」
小春はあきれ顔で部屋に入り、私を見上げた。
「そんな言い方しないでよ。私、今人生最大の山場を迎えているんだから!いや、もう人生は終わっちゃったんだけど……」
「ふうん。ていうかお姉ちゃん、その空中浮遊はどういうトリックなの?」
私はぷかぷかと妹の周りを漂いながら答えた。
「トリックなんてないよ。目が覚めたらこうなってたの」
私はこれまでの経緯を臨場感たっぷりに話して聞かせた。
「なるほどね。じゃあ、そこで伸びてるほうがお姉ちゃんの本体なわけだ」
「ちがうから!こうしてしゃべってる私こそが本体だから!」
私はむくれつつも、こんな超常的な現象をすんなり受け入れてしまう妹をすごいやつだと思った。昔からそそっかしい私とは正反対で、地蔵みたいに何事にも動じないところがあるのだ。
「なんにせよ、私はこのままじゃ本の続きが気になって気になって、すんなりとあの世に行けそうもないのです!」
「そっか、たしかにそれはもったいないね。この本、すごくおもしろかったから」
妹は持っていた本を両手で胸の前に掲げた。それは、まさしく私が求めていたあの本だった!
「それ、なんであんたが持ってるの!?」
「なんでって、この本を買ったときにわたしも出資してるんだから、当然わたしにも読む権利はあるよね?」
……そうでした。ハードカバーだから今の私のお財布事情じゃ厳しくて、一部協力してもらったんでした。
「そうは言っても半分よりは少ない額だったから、こうしてお姉ちゃんが寝ている間にそっと抜き取って、そっと返しに来てるんだよ。なんか文句ある?」
ぐうの音も出ない。
「でもまあ、お姉ちゃんがどうしても旅立つっていうんなら、この本はゆずるよ。もう読み終わったし」
「……はえぇ!!」
私が1日中かけて3分の1しか進まなかった本を、小春は一晩足らずで読み切ったらしい。
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