脅迫という名のプロポーズ

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 *** 「雄大(ゆうだい)! バカなことは言わないで!!」  母さんにビンタをされる。初めて母さんに手を上げられた。手を上げさせてしまった。  俺と夏越の関係は認められず、俺は引っ越すことになった。夏越をあの町に置いて……。 ***  住民票を取りに行くことしか行ったことがない市役所。俺は夏越に連れられて、脅されるように来てしまった。 「ほら、ゆうくん。ここに名前と判子を押そうね」  カフェに行ったが状況は何も変わらなかった。引き摺られるように手を引っ張られ、市役所の中を歩く。  近くにあった机の前でペンとどこからか持ってきた判子を手渡された。  コレを書いたら、もう戻れないんじゃ……。 「ん、ゆうくんどうしたの。自分の名前忘れちゃった?」  ほら……と無理やりペンを握らされる。手の上から夏越の手が添えられた。  右側の空欄に『石田雄大』と手の力が入ることなく筆が走った。判子を汗ばむ俺の手に握らせて朱肉を付けて紙に押しつける。 「完璧だね! 記念写真を撮ろう!!」  意気揚々と夏越は婚姻届を片手に俺と写真を撮った。無機質な音と共に俺の苦笑いが写り込む。 「ん?? ゆうくん表情固いよ?」  スマホの画面を確認しながら夏越は怒った。ますます戻れなくなった状況に冷や汗が止まらない。  ここでふと母さんの顔が思い浮かんだ。なんでこんなことになったのか教えてくれるかもしれない。 「あの、さ……出す前に、ちょっと親に連絡していい?」  まだ婚姻届は出したいない。夏越が2人一緒に出したいと言ったからだ。 「いいけど、ゆうくんいまさら親に結婚連絡するの?」 夏越の目が怖い。でもやっぱり何か不都合があるんだ。ここで食い下がるわけにはいかない。
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