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「ほ、ほらこ、婚姻届! そう婚姻届書いてくれたし! お礼を言わないと!」
そう誰だって書類を書いてもらったらお礼を言うはず。自然なことだ。
「ふふっ、ゆうくんはお母さんが大好きなんだね。だって何でも言うことを聞いちゃうんだから」
……ゴクリ。思わず唾を飲み込んだ。それは何も言わずに突然引っ越したことを言っているのだろうか?
夏越の気が変わらない内にポッケからスマホを取り出して電話をかける。夏越に会話を聞かれないように、何気なくその場から離れようとすれば「どこ行くの?」と呼び止められた。
「え、電話をかけに」
まだ耳元ではコール音が続いている。夏越の声が入る前に離れたい。
「ここでいいでしょ?」
夏越は床を指さす。
「いや、ここ室内だし周りに迷惑が……「なら僕も一緒に行く」
「え?」
こいつまで一緒にいたら話す内容が限られる。なんとかして置いて行かなくては……
「ゆうくんは僕が傍にいたら不都合があんの?」
疑いの眼差しを向けられて、いやないよ、と言うしかなかった。
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